スポーツで素晴らしい功績を残した人が、モラルに反した事件で、新聞やテレビのニュースで世間を騒がせることが少なからずある。スポーツでは人間性は育たないのだろうか。

 昨年の高校野球で春夏優勝した沖縄の興南高校の理事であり、野球部監督の我喜屋氏がロータリークラブで講演した時の原稿を読んだ。

 残飯だらけの寮の食事、夜遅くまで起きていて、朝起きられない生徒たちを目の当たりにした我喜屋監督が最初にしたことは、選手達の生活の見直しであった。「心から直していこう」と。

 中でも面白いと思ったのは、朝の散歩だ。監督の言葉はこうだ「散歩というのは研修でもよくやります。これには落とし穴があるのです。先頭の人は目標を見て歩きますが、二番目から後ろはただ連れられている状態で、五感を活性化しながら歩くということが薄れてきます。ですから、ばらばらに歩きなさい、目標は自分で決めなさいと言いました。そして、見てこいよ、聞いてこいよ、触れてこいよ、においをかいでこいよ、と。五感を通して情報を集めてこい、その後、1分スピーチが待っているよ。誰にあてるかわからんぞ・・・・」

 一人ひとりに主体的に生きるということを伝えている。五感で情報を集め、感じ、考え、表現し伝える「生きる力」だ。

 その他、監督が言っていることは、相手への気配りと心の豊かさであった。心の豊かさについて、優勝旗に次のように語らせている。

「僕を連れて行ってくれるにふさわしいチームしか僕はついて行かない。でも、野球だけじゃだめだよ。心も備わってなきゃだめだよ。地域と一体感はあるの?僕が行った時、みんなが喜んでくれるの?」

 監督の思いが本当に生きてくるのは、選手たちが社会に出てからだろう。スポーツでも勉強でも、指導者の心に「豊かな人間を育てる」という思いがあるかどうかが問われるのだと思う。